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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
直義は答えて。
「いや、兄上たちは昼、正門の若宮御門からお入りだったはずでしょうが」
「ア、そうそう。供の者も乗物も、若宮御門の方へおいてあったのだな。――そこはまだ、火事の混雑ならんと、つい、小町御門でと口に出てしもうたが」
「ここへ、姉ぎみ一人おいても行けずと、むなしく佇んでいましたが、お待ち下さい。私が一ト走りして、輿の者や、駒脇どもへ、小町御門の方へ廻れと、申しつけてまいりますから」
走りかけると。
「直義、それには及ばん。おぬしの駒は、それであろうが。――その馬貸せ、登子を乗せて、わしは、ぼつぼつ先へ行こうよ」
「姉ぎみと、相鞍で」
「夜半すぎだ、おかしくもあるまい」
「お睦まじいと、昼なれば、鎌倉じゅうが羨みましょう。では、私は、正門の方へ声をかけて、おあとよりまいりまする」
「この兄は、わがままものだな」
「なんの。いざ、どうぞ」
さきに登子を乗せ、高氏もすぐ鐙を踏む。登子は、かいどりを被衣にした。袿衣なので、横乗りに、自然、鞍つぼの良人に甘えたような姿態になる。
なおまだ、火事場の余燼が空には赤く映え、町は夜も丑満を何処ともなく騒々しい。しかし、ふたりを乗せた駒音は、愉しむごとく、トボトボ行く。