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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

ここへ、おととい頃から、旅装を解いた客があった。海道沿いの便利な地だし、社交家の道誉とて、往還に立ちよる客は常に多いが、この泊り客へも、歓待いたらざるなく、きのう今日、道誉が不在中には、遊女めいた女たちが主に代って、客の不聊をなぐさめていた。

客は、新田義貞だった。

都で二年余の禁門大番をつとめおえ、まずは執権高時の御病気伺いなどもすまし、それから郷里上野ノ世良田へ帰ろうという急がぬ解番のからだなので、つい引きとめられていたらしい。

一つには、折ふし、大馬揃いの前日とも聞えていた。で、そんなさいに入府してもと、義貞も、腰をすえたのだろうが、さらには道誉がまた、

「当日には、ほど近い七里ヶ浜より、高氏どのを拉し来って、一別以来の御両所に、ここで打ち溶けてもらいたいもの」

などと、いい残して出て行ったことにも、義貞は幾ぶん心をひかれていた。しかし、果たして高氏が、来るか否か。

「……おそらく来まい」

自分にひきくらべて、義貞はそう思った。

高氏とは、問注所の対決以来、会っていない。

あの直後。――自分は大番に上り、高氏は鎌倉にとどまり、彼の消息も、噂だけには聞いているが、今では、赤橋殿の妹を娶って、北条一門の歴々に列している足利だ。