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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

いきなりそこへ匍匐して、獣のように、流れへ顔を持って行った。

……がぼ、がぼ、と夢中で水を吸ッていたのである。すると、その水は急に火の色になった。ぎょッとして上を仰ぐと、上の崖道を、六、七人の人影と松明が通りかけていた。

颯ッと、一つの松明が、下を望んで焔を振ったと思うと、

「何者だっ。そこにおるのは」

と、上で呶鳴る声がした。

「旅の者よ」

藤五が、嘯くと、

「旅の者とだけでは分らん。素姓をいえ」

「おぬしらこそ、どこの者だ」

「おれたちか」

顔見合せている風だったが。

「これは三州一色党の者。ちと尋ねるお人があって夜行の途中」

そう聞くと、藤五は色を失った。――が、その狼狽した自分の挙動も、暗がりの上と下、気どられたはずもないと、いっそう、ぐっと落ちつき払って。

「それや御苦労な。……自分事は、花山院家の雑色なれど、鎌倉へのお使いをすまし、都へ急ぎ帰る途中の者でおざる」

「やあ、お見それした、おゆるしあれ。が、東からこの山中路をお通りなら、お若い尼僧と盲の子連れの旅人を、どこかで、お見かけなさらなかったか」

「さよう。見たような気もする」

「や。どこで」

「舞木の小屋であったか、本宿の辺りであったか」