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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

先へ通らっしゃい、通らっしゃい」

しかし、従者のそんなことば程度で、ごまかされる山伏ではなさそうだった。にやにやと、それはそれでソラ耳にうけ流している。そして彼自身が日野俊基とにらんだ者のそばへすり寄って、歩調も共に。

「……げに、お久しゅうございましたな。はや六、七年も前のこと。大和の当麻寺にて、一夜よそながら、お目通りした覚えがありまする。その折は、あなた様も、われら同様な山伏姿にお身なりを変えて、次の日、当麻越えより高市の方へ、ただお一人で、忍びやかに、お立ち出ででございましたが」

「…………」

「さいぜん、龍田の路傍で、ふとお見かけした折も、すぐ思い当りまいたが、居合せた若い学僧は、宮方不服の輩と見えましたゆえ、わざと、眼をそらせて、立ち去った次第でございまするが、何はともあれ、いつも御健勝の態で、宮方たるわれら末輩まで、心強うぞんぜられます」

「…………」

「次いでは、五年前の秋、あの正中二年の騒ぎでは、あなた様にも、日野資朝卿と共に、鎌倉表へ曳かれてゆき、一時は、宮方同心の者みな、暗澹な思いにくれましたが、佐渡へ流され給うたは、資朝卿おひとりにて、あなた様には、解かれて、都へお返りなされてでござりまいた。