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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「いや、今日はちと急ぎまする。いずれまた。――ごめん」

とばかり、一目散に逃げ去ってしまった。

「あ。うさんな山伏」

「追うな。菊王」

「でも、みすみす」

「放ッとけ、放っとけ」

俊基はただ笑って見送っていた。もう彼方だった八荒坊の影は、たちまち、王寺の辻の辺りで見えなくなった。

菊王はいまいましげに。

「何もかも、おあるじの御本身をば、知り抜いていたような彼奴の口吻。ただの山伏とも思えませぬ。そもあれや、何者でございましょうか」

「知れたこと。――偽宮方と申すものだ」

「偽宮方」

「六波羅の放免(密偵)どもも、次第に、賢うなって来たわ――宮方の密使や説客などが、まま山伏すがたを仮りて往来することあるを知り、近ごろは、彼らの仲間が山伏の皮をかぶって、幕府に反意あるものを、頻りに嗅ぎ歩いているものらしい」

「すれや、一大事だ」

「何が一大事?」

「なにがと仰せられますが、これよりは長のお旅路、しかも、ゆゆしき御秘命を持たれるのに、この先、何となされますか」

「なんともせぬ。行雲流水」

「はて。ここだけは、蝶もうららな道ではございますが」

菊王としては、行くての空へ、眉をくもらせずにいられなかった。