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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
それらは柳生谷から大和月ヶ瀬方面へ向って駈け、数珠口坂あたりに無数な屍をすてて逃げおちた。
が、彼らの最期や、そうした支えも、山上の行宮にとっては、時を稼ぐに大きな任務をとげていたといえよう。――天皇のご寝殿も、変と同時に、炎にくるまれてはいたが、そこへ幕兵が駈けのぼって来るまでには、なお、お身支度やら何やらの、寸時のいとまが幸いにあった。
おそらくは、後醍醐も、がばと刎ね起き給うやいな、御衣、お袴をつけるのさえ、やっとの間ではなかったか。
「誰ぞ、神器を取り出して、護り持て」
とのお叫びがあったのも、まちがいあるまい。
なにしても、公卿ばらは動顛して、身一つさえうろうろだった。いちはやく、お手をとって、外へ走りのがれていたのは、日ごろは柔弱なと、父皇さえ嘆いておられた弟宮の宗良で、
「みなはお後から続きましょう。さ、すこしもお早く」
と、山頂の杣道を、ひたむき急いだ。もちろん、天皇もお革穿きの跣足だったし、皇子も跣足のままだった。
またその影を慕って、すぐ公卿の一ト群れや僧衣の影も、氷雨、火の雨の下を、走りつづいていた。
道らしい道はない。雨、風、黒白もわかぬ山中の闇。