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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

、

「ここでもない」

と口々に、奥の方丈や別殿のほうへ駈けこんで行った様子。

そのすきまに、宮はすばやく、大般若の経ビツの中へ躍りこんだものである。みずから乱離な経巻の解れをかぶって、深く沈み、息をこらしておいでになった。

「もし、ふたたび兵が来たら、天命それまで」

と、み手の短刀を、腹に擬しておられたのだ。

と。ほどなく、またもいぜんの兵どもが引っ返して来て、血まなこな様子だったが、一度掻き荒らした経ビツの底までは覗こうとせず立ち去った。じつに九死に一生をえられたのである。

この宮――ただしくいえば大塔ノ宮二品親王は――かくてその随身、光林坊玄尊、赤松ノ律師則祐、木寺ノ相模、岡本ノ三河坊、村上彦四郎、片岡八郎、平賀三郎、矢田彦七らと共に、熊野詣りのいなか山伏と身を化して、その日に、般若寺から掻き消えてしまった。

しかし、笠置、赤坂の失墜がひびいて、熊野ノ別当以下三山の勢力も、宮方には冷たく、宮はやがて吉野から十津川の深くに一時身をかくした。

そのあいだ、どこで正成と会われたかは、山中の雲煙裡、まるで神仙の会盟みたいで、なんの確証ものこっていない。が、両者の後の行動には、はっきりした連繋がとれている。