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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

キキキ、キキ……と奥の木立から軋みめぐッてくる牛車の輪音に気づくと、門の衛士、滝口ノ義数はすぐ衛士小屋の部下を呼ばわって、待ちかまえ、

「どなただ? まいられしは」

と、誰何した。

出入ともに、昨今、ここは厳重をきわめている。

が、星かげの青い暗がりに淀み駐まったのは、一輛の女車と、それをつつむ、ゆゆしい上達部のひと群れだった。

宮門の厳戒なればと畏んで、中のひとりが、

「これは、中宮のお実家方に、俄な御病人が出来たため、夜も厭わせ給わず、おん見舞に罷られる御車です。――列を遠くにお開きなさい」

と、どこか諭すような口吻で言った。

義数は、はっとして、

「では、皇后でおわしますか」

と、部下を道のわきへズリ退けて、敬礼の姿を執った。

前駆の人々とみえる七、八名の影が、大股にまず門を出て行った。つづいて、夜目にも著き白と黒のまだら牛が、車おもげに曳いて通る――。

「はて?」

一瞬、滝口の者は、みないぶかしげな眼で見送った。

女車は女車でも、華麗なみ妃車とも見えない。窶れたるただの女房車なのだ。

しかし、車の下簾の裾からは、何さま、み妃ならではと思われるような御衣の端が垂れ見えていた。