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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

暁闇も、まだ真っ暗といっていい。

ただ中ノ坪や大屋根には、消え残りの雪が白々と凍ッている。そこから切りつけてくるような冷たい風。

見れば、薙刀、槍、長柄などの光が、閃々と、坪向うの廂の下を表のほうへ駈け急いでいた。――いや兼好の身も、後から後から、走って来る甲冑の者に、叱咤されたり、突き飛ばされたり、幾度となくよろめいた。

「夜討ちか」

「いや朝駈けだ」

「敵はどこに」

口々、さまざま、兼好の耳をもかすめて行ったし、兼好自身も外へ出て見まわしたが、異変はここの館ではなく、どこか遠い所のものらしい。

しかし、すぐ横の佐女牛の杉並木では、非常太鼓のうちに、くろぐろと陣備えがおこなわれていたし、またいんいんたる貝の音は洛中の空の諸方で鳴っている。

「ともあれ、何事か起ったな」

兼好はこのまま帰るにはいい機だとも考えた。で、館の前の辻を、六条坊門の方へ一歩曲がりかけると、人数のあいだを、馬の軽歩でトットと馳けて来た佐々木道誉が、ちらと彼の影をみとめたらしく追って来た。

「法師法師。どこへ行く」

「オ、これは殿」

「なぜ無断で帰る」

「非常の勃発とみえますゆえ」

「なに大したことはない」