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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「おそれいりますが……」

「なに、人がいては都合が悪いか。では、女どもはみな立て。……ところで主膳、その腰抜け振りで、どう先ごろの雪辱をいたす気か」

「こんどこそ、きっと致さねば、一分が相立ちませぬ」

「羅刹谷から小右京の身を奪り返す策でもあるか」

「いえ、羅刹谷へは、しょせん手が出せませぬ。それに代るべつな女性を、小松谷から奪って、ご鬱憤に供えたいと存じますので」

「小松谷。小松谷といえば、探題仲時どののやしきだが」

「さようで」

「はて。そこの女性とは誰か」

「誰とおぼし召しますな」

「わからん。わかる筈はない」

「殿。……」

主膳はずっと膝をすすめた。そして指でたたみの上へ、

藤夜叉

と、書いてみせた。

藤夜叉が都へ来ている。それは彼も初耳だったようだ。

主膳のきは、彼の悪酔をなお濃密なものにした。驚きと、ほろ苦い失恋の追想の中にである。

おそらく、今は女ざかりの熟れ頃にあるであろうが、以前の稚い田楽女の藤夜叉を思うだけでも、彼の中には、ぼつ然と、かつての猥情が再燃していた。それも往年の比ではない。この猥漢の色道年歴も一ばい長けて来た今日だった。

「もともと、藤夜叉はおれがお抱えの田楽女だ。