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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

宮は、ひとかどの歌人だった。後には“李花集”の御著すらある。

「その君が」

――ああなんと無残な、と昨夜は、警固の眼をぬすんでのつかのまながら、その痩せ肩を抱いて上げたいばかり、さまざまお力づけもしたのであった。

宮は涙のうちに、懐紙へ一と筆走らせた。ついに会うことをゆるされなかった父のみかどへ。「――兼好、あとでこれを、父のみかどへお渡ししてくれ」と、彼に託しておかれたのだ。

兼好はさっそく、今日、それをふところに、出たのである。

おいて行かれた命松丸は、やがて、追ッついて来て、

「わっ、待ってくれ」

と、いちばん後から渡舟のうちへ飛びこんだ。

舟の中に笑いが起った。

「河童や、河童や」

彼を見てみなおかしがる。

みれば、彼の顔は、鍋ズミだらけだ。頭から水をかぶせられた腹いせに、釜屋の婆と、格闘でもしたあげく、またも負けて来たにちがいない。婆は強いのだ、命松丸など敵ではない。

兼好さえ、おかしくて堪らず、人前なので、ただそっと言った。

「命松。顔を洗え」

「はい」

命松丸は、尻を逆さに押ッ立てて、舟べりから顔を水へ臨ませた。顔を洗っている間、彼と一身同体に暮らしている“ふところ雀”は、彼の背中へまわって止まっていた。