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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

と、またすぐ裏口へ戻って来た。

「お客だもんか。薬売りがあっちへ行ったよ。薬売りと間違えたんだろ」

「でも、お武家のような声でしたのに。おかしいわね」

「ア、そうじゃなかった。もう奥へ通ってら」

「え。奥に」

「お師匠さんが、とうに自分のお書斎へ通してたよ。ああ、あのお侍なら、いつかも、ここへお使いに見えたことがある」

しかし藤夜叉は、客を覗いてみることもしなかった。一そう身を隠すように、干し物の下へ立ち寄りながら、

「どこのお方?」

と、小声でたずねた。

が、命松丸は、そのとき、兼好の呼ぶ声に、大きく答えて、家の内へ駈けこんでいた。

そして、しばらくすると、兼好は書斎を立ち、迎えに来た客の侍と共に、庵の門から連れ立って、吉田山を降りていった。

「お藤さん、お入りよ。もう帰ったよ」

「兼好さんもご一しょにお出かけですのね」

「今夜は帰らないよ、って仰っしゃってたけれど、お師匠さんのことだから、分りやしない」

「どちらへおいでになったんですか」

「いま帰ったお侍ね、あれは佐女牛のお迎えなんだよ」

「佐女牛って」

「知らないの。黄母衣で有名な、あの佐々木道誉さまのおやしきを」