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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「花夜叉。――急にこの道誉へ告げたいため、ここで待っていたとは、どういうことか」

「はっ」

と、花夜叉は、地に伏せていたひたいを上げた。菊花石くずれの鬼みたいな顔である。花夜叉という芸名は、それを愛嬌に売り物としている所から来たものだろう。もう五十すぎた年配だが、体つきも頑丈で、田楽者らしい頭巾、袖なし羽織に、短めな帯刀を一本横たえ、木の根にかけたご領主の姿に、終始、胸も伸ばさない恰好だった。

「じつは、つい先おととい、この街道すじで、むすめを見たという者がございまして」

「なに、藤夜叉を」

「はい」

「ふうム……?」

「なんぞ殿に、お心あたりでもございましょうか。かねがね、藤夜叉が村へ立ち廻ったら、必ず一報せよと、仰せつかっておりましたが」

「心当り? ……。いや、知らん。そして、どうした? ……村へ帰って来たわけか」

「いえいえ、そんなことならばよろしゅうございますが」

「では?」

「そのために、田楽村の者二、三が飛んだ災難に会うたのでございまする」

花夜叉の知らせは、道誉に耳をかたむけさせた。

彼の訴えによれば。

つい二、三日前のこと。田楽村の者たちが、西明寺の三重ノ塔供養へ出かけての帰り途で、藤夜叉にそっくりな女性を、この街道で見かけたという。