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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

やがて、近づく道誉の姿を見つけると、具行は、青芒の戦ぎの中で、ただ一つの戦がない趺坐の石仏のごとく、硬直して、きっと相手をにらまえていた。

「…………」

道誉は眼をそらした。

もちろん、意識的であるが、そうは見えないほど自然に、周りにいる兵以外の顔を見まわして、そのうちの山寺の僧たちへ、なに事かを、低目な声でいいつけている。

それから、やおら、仏ずきな老婆が、野の石仏でも拝むような恰好で、具行の姿の前に、ぺったりと、ひれ伏した。

「道誉っ。いやさ、似非入道」

具行の眼光は、まるで灰色の闇にある燐だった。

「わしの顔が仰げぬのか。……いや見られまいわ。愛知川の一夜、そちは何とわしに申したか」

「はい」

「もし、姿を見せずば、わしはこの首へ、断刀をうくる一せつなでも、そちの腹ぐろさと、腹の秘を、天地へ叫んでやる気だった……」

「あいや、羽林(中納言ノ別称)どの」

道誉は、かろくさえぎって。

「愛知川の夜も今も、道誉に変りはございません。もし、豹変のできる道誉なれば、執権の御奉書をかさに、誇りこそすれ、何条、気の弱さなど見せて姿をかくしていましょうか。……道誉は気弱者、末期のおすがたを、拝すにたえないのでござりまする」