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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

――せめては道誉がうけたまわって、後々にでも……」

一人の兵が、蓆を松の根がたへ敷き直しているのが見えた。

具行は、やっと、平常心をとりもどしたように、黙然と立った。――道誉のあとから、歩を運ばせつつ、謎を見るように、道誉の背を凝視していた。しかし、歩くしかなく、いまは観念の姿だった。

その数百歩の間にも、やむまなく、風がつよい。稲妻は、彼の弔花のようだった。やがて松の下へ、彼が坐ったと見えたせつなも、一閃のいなびかりが、松のみどりを、ぱっと浮かせた。

「道誉。……愛知川の夜も、今の自分も、変らない道誉だと、申したな。その心底を、もいちど、死出のみやげに、たしかめおきたい。その本心を」

具行が問いかけた時である。ちょうど、山僧がそこへ届けて来た硯、料紙を見て、これ幸いのように、道誉は言った。

「いやまず、ご遺書を先に……。ご辞世のお歌でも、一ト筆これに」

辞世をといわれて、具行はつい筆を持った。いや持たせられたといってよい。

彼はここで、もいちど、道誉の胸を存分きいてみたかった。いま死す自分へ、嘘をいう要はあるまい。ねがわくば、人を信じ、世を信じ、笑って死にたいと、あせっていたのだ。