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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
と。そのとき、
「や。ここでおざりましたか」
爺の恩智左近が、うしろへ来ていた。
閑かなお主の姿とちがって、老臣の彼のひとみには、戦下の世音が、ギラギラと爛れている。
「爺か」
よいところへと、正成は彼の赤ら顔へ、すぐいいつけた。
「何やら徒然……。侍女に申して、茶でも入れさせて来ぬか。……そしてな左近、そちもここで、秋の日を愉しめ。好い日だわ。久子もこれにおる」
だが、爺の恩智左近は、ひどくむッそり面だった。
お家大事と仕えている日ごろの老臣ぶりも、どこへやらである。答えもせず、廊へ坐って。
「殿っ」
「なんだ、きつい眉して」
「ただ今も、領下の者より、奈良、笠置あたりの沸くがごとき騒ぎを、矢つぎ早に、お表まで告げまいりました」
「そうか」
「昨夜は昨夜でまた、都からのお飛脚。――ご親戚の玄恵法印さまより、事つぶさに、これも楠木家を案じられてのご情報で」
「そうだったなあ」
「はアて?」
ひと膝、ゆすって、
「殿には、なぜ、そのように、ひと事みたいに仰っしゃいますのか」
「そちこそ、なんでまた、度を失うのだ。ここ幾日も」
「度を失わずにいられましょうか。天下は真二ツに割れ、おそれおおくも、時のみかどは、わずかな手兵を召されたのみで、笠置にお籠りと聞えますのに」