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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

しかし今はそれを問わなかった。

「よしっ。みなの覚悟が、そこまで一つだと申すなら、正成も共に起とう。起つしかあるまい。ただし、どんな苦境に立ちいたろうと、悔いはないな」

「毛頭、悔いは残しません」

「……久子」

「はい」

「聞くとおりだ。そなたも異存ないな」

「血で血を洗うようなお身内同士の争いさえ避けられるなら」

「忍びきるか」

「ぜひもございませぬ」

「では、さっそくの誓いを固めよう。酒を持って来い」

やがて、土器と冷酒が運ばれ、一座七十余名の手へ、順々に酌み交わされて行った頃、いつか秋の長い夜も明けかけていた。

「正季」

「はっ」

「ほかの面々も聞いておけ。以後、一切の独断や盲動はまかりならぬぞ。正成の一命はそちたちのものとしよう。また、そちたちの生命も正成にあずけてくれい。さもなくては、合戦には向い難い」

「ご念には及びませぬ」

「ならば微力ながら、楠木一家の全生命は強い一つだ。挙げてそれを朝廷にささげますると、勅使の許まで、今朝お答え申しあげよう。一同はここで待て」

すぐ馬の用意をさせ、正成は藤房の泊っている錦織の坊へ向った。――朝焼け雲のさやかに紅い朝だった。藤房もゆうべは眠られずにいたことだろう。