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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
高時一人ではおもしろうない。一同唱和せい、一同唱和せいっ」
しかし、無理だった。虚空には火のつばさが飛び、火のチリは雨とここへも降りそそいでくる。――すぐ丘の下、滑川のむこうには、たそがれの黒白も分かず、たくさんな兵が、ひしめき合い、呶号の潮を逆巻いているのだった。
すべてみな敵の新田勢ばかりにちがいない。東勝寺の大外にある総門の築土もどうやらあぶなそうなのだ。それへたいして武者吠えなら振るい出せもしようが、謡などは、歌の詞も心の上に思い出しようのないここの人々なのである。
むしろ彼らは、ひそかに高時を心のうちで憐んだ。また羨ましくもあった。
自分らにはまだ失せきれない正気がある。だが「高時公には、早や全く、ご狂乱よな」と、嘆き合うらしい態だった。
すると、春渓尼がそれへすすんで言った。
「太守。舞をおすすめ遊ばしませ。尼が相拍子をつかまつりましょうほどに」
「おう春渓、そなたが相拍子いたすとか。満足満足……」
なぜ騒ぐ
やなぎの糸は……
と、高時はすぐつづけ、
世のかぜが酷いゆゑと
鎌倉の烏は言ふよ
烏に似たる天狗ども
谷の穴にや巣食ふらむ
夜々七郷の空に出て
華雲殿の棟木をゆすり