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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

――ただ、後醍醐に後醍醐の理想があったように、高氏にもまた高氏のいだく未来図はあったのだ。それは元々、似ても似つかぬ理想であったし、初めから妥協の余地もないものだった。

四月十六日。

はやくも、高氏以下の軍は、洛中へ入っていた。

廃墟。都の今はそれにつきる。

大内の森や里内裏にも、住まうお人はいなかった。

平家都落ちのむかしとて、こんなではなかったろう。焼けのこった公卿館や死の町の一角はみえるが、昼も人影は稀れで、ふと生き物の声がすると思えば、犬が子を産んでいる。

そのくせ、夜になると、夜の闇は不気味な脈を生き生きと打ち出して人間のうごきを感じさせてくるのであった。あらゆる悪と兇暴がその中でおこなわれているらしい。また敵とよび合う者同士が嗅覚を研ぎあって諜報の取りやりもしているらしい。しかし草ぶかい野の禽獣の生態みたいに、眼に見えるものではなかった。

「これが都か」

足利軍五千は、当座、二条の河原へかけて、野陣した。

予期に反して、入京早々にもと覚悟していた合戦もなく、張りあいのないくらいな無人の曠野に、ふた晩ほどは、大かがりを焚き、その焔の下で兵は言った。