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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
それをこえて東宮に立てられたのであるから、廉子のどんな力が蔭で帝に迫っていたにせよ、後醍醐もこの恒良をいたく愛しておられたのはいうまでもない。――それのしるしには、高倉の馬場殿へお成りあって、競馬を見る日も、歌舞、蹴鞠を上覧のさいにも、かならずといってよいほど、そばには東宮をつれておいでだった。
「お上」
と、その日、十番の競馬も終るころであった。花壇のような桟敷の揺れの中で廉子がふと後醍醐へささやいていた。
「二十日の夜、東宮の御所へ、おひろいで気軽う、お遊びにいらっしゃいませぬか」
「なにしに」
「東宮のおのぞみで、近ごろ都で評判な琵琶の上手、覚一法師を召されることになっておりまする」
「覚一?」
「はい、おかみも、噂はご存知でいらっしゃいましょ」
「ついぞ、聞かんのう」
それは後醍醐の習性といってよく、姉のような廉子の機嫌に、どこかでお心をつかいながら。
「覚一とは、初めて聞く琵琶法師だが、どうして、東宮が御所へ招きたいなどといい出したのか」
「いつか斎宮へおいでの折、ちょうど来あわせていたのでございました。斎の君とその母子とは、冷泉家の歌の同門だそうでして」