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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

明くれば六月二十二日で、北山行幸のご予定だった。御車備えの大舎人や随身もみなそのつもりで供奉のしたくが始まり、ほかには何らつねと変ったところもなかった。

だから当然、みかどの臨幸を約していた北山の西園寺家では、御車迎えの清掃にチリもとめぬ用意をととのえ、やがて夏の陽あしも蜩の声に涼めきそめる頃ともなれば、

「もうか」

「今か」

と一同、首を長くしてお待ちうけ申していたにちがいない。

北山殿とは、洛外衣笠村大北山のすそで「増鏡」内野の雪ノ巻に、

そのかみ

太政大臣公経のきみ

夢み給へることありて

ゆゆしき法堂を建て

名をば

西園寺となむ申しおかる

とある、その宏大壮麗な一地域であって、殿楼の数寄はいうまでもないこと、園内にはひろやかな池水をたたえ、峰からは滝津瀬のひびきを降し、浮島のなかに夢殿を、汀には法水院を。そして化水院、無量光院などを朱の橋や廊でつなぎ、つまりは王朝貴族の浄土具現の道楽をそのあるかぎりな財富で地に画きつくしたようなものだった。

代々の西園寺家はここに栄え、いまの大納言公宗の父の代には、後醍醐もまだ皇太子であったが、その頃からしげしげ遊びにみえられた所である。