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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「しまッた」

と、弓をつがえる暇すらないまに、列は、賊徒のために両断されていた。

「下へ駈けるな」

仲時は、あえて味方の一端を見捨てた。どよめき立つまわりの駒や徒士を指揮して、峠の九合目をのぼりつめてしまった。そして番場ノ宿へ入るとすぐの一叢の林のうちへ駈けこんだ。

「おん輿を、みなそこへ」

彼のさしずは、急であった。ここらへまでバラバラと賊徒の矢が飛んで来る。どの輿丁の兵もみな喘ぎ喘ぎで、来るやいな、各※(二の字点、1-2-22)の肩の輿を、身ぐるみ、抛り出すように、どんと置いた。

「あ」

と、光厳帝は、輿からおからだを投げ出されていた。法皇上皇も、女院がたも次々に、輿の内からまろび出た。

人心地のあるお顔はなく、みずから起とうとなさるおひとりもない。仲時は、そこの一堂をさしながらお急き立てした。

「万が一のばあいにも、仲時がおりますからには、めったなことはさせませぬが、もし流れ矢などに触れ給うてはなりません。しばしそこの御堂へお潜みねがわしゅうぞんじまする。決してご心配なされますな」

子をあやすようだった。喪心のお手を取ってあげたり、おからだを持ちささえたりして、やっと、主上以下の方々を、堂のうちへ隠し終ると、仲時は、はじめて多少のおちつきをえた。