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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

上杉憲房や三河党の面々とも計って、夜すがら、対岸の六波羅を、注視していた。

だが、杞憂にすぎなかった。翌日のひる、高氏は、つつがなく川向うから帰ってきた。――六波羅での軍議は、夜どおしであったと語り、万端の打合せもすんだと言った。そして、

「協議のすえ、尾張どのの本軍を大手と呼び、われらの軍勢は、からめ手を行くものとする」

と、沙汰ぶれさせた。

直義は愁眉をひらいた。どうやら、これまでのことは、名越軍も六波羅でも、まったく感知していないらしい。天のたすけぞと思われた。なお、偶然でもあったのは、この数日のあいだに、高氏ならぬべつな離反者が出て、六波羅側を、てんどうさせていたことだった。

それは、東軍の一将、奥州白河の結城光広の子、親光の一軍で、さきごろから狐河の辺で敵の赤松勢と対峙していたが、俄に旗を巻いて、宮方へ投じてしまったものである。

それの余勢で、前線の一角では、毎日のように逃亡兵が出ていたので、六波羅から関東勢のうけた衝撃は、一にも二にも、

「裏切り者の結城めが!」

であった。しぜんその一方へのみ注意も憎しみも向けられていたのである。そしてまさか、前執権の妹聟の高氏のふところにも、後醍醐の綸旨がかくされていたなどとは、疑ってみる者すらもなかったのだ。