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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

戦局に敏感なのは、上よりもむしろ下部である。――六波羅が落ちるいぜんからとうにここへも聞えていた――足利殿の離叛などは、とくに彼らの士気を大きくゆすぶッていたにちがいない。

それと、見のがせないのは、古記に徴してみると、寄手の総退却となって、

二里三里が間の山路を

敵には追つたてられ

今朝までは十万騎の勢も

残り少なに討たれて

わづかに生けるものも

馬物具を捨てぬはなし

というほどなのに、

されど宗徒の大将達は

一人も討たれずして

その日の夜半に

南都にこそは落着かれける

と、ある一事だ。

これでみれば、歴々の大将たちは、長崎以下すべて、もっとも早く、またもっとも無事な逃げ口をとって奈良方面へなだれ落ちたとしか考えられない。

けれど、それにせよ、ただ六波羅の悲報ひとつで、こんなにまでの、俄なみにくい総くずれをおこしたとするには、まだすこし疑問があろう。思うに、ここの味方内から離反者が簇出したばかりでなく、摂、河、泉いったいにわたる日和見的な武族もまた、

「すわや洛中が宮方のものとなっては、すえの勝敗もおよそみえたぞ」

と、がぜん態度を変え出したのではあるまいか。

さらには野伏から土地の散所民までが、こぞって寄手方の背へ、けわしい形相をしめしたなどが、鎌倉勢には腹背の怯えとなって、さしも大軍とみえた金剛山麓の蟻の巣のようなもの