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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
広くおよぼす沙汰には、宮のおん名を以ていたさねばなるまい」
「それもこころえました。して、赤坂へはいつ?」
「移り住むかと申すのか。そうだの、下赤坂の城は、日を待たず復旧させよう。わけて山上にある女子供は、一日もはやく、そこへ帰りたがっていることでもあろうしの」
こうして、正成が、いちど千早へ引きあげて行くまでには、信貴山毘沙門堂にある大塔ノ宮へも、洛中の千種忠顕へも、使いをたてて、つぶさにここの戦捷を報告していた。
そして、彼の姿が、千早のとりでへ帰ってきた日は、あの河内平野に沸いた物狂わしい屍山血河の勝どきとは異なって、寂かな青葉のうちから、よろこぶとも泣くともつかない、ただ高い感動にせまった人々の諸声が、わあっと、谺し合って、彼を争い迎えたのだった。
「おお、御本屋さま」
「お館」
正成の姿は、たちまち、留守していた骸骨のような人々や、傷負の片輪たちに、取りすがられ、また行く道をふさがれて、歩けないほどだった。
「よろこべ。いくさは勝った。みなのお蔭で勝った」
正成もまた顔を濡らした。勝ったというよろこびも、彼にはこの群れの中で初めて実感のものになっていた。