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こどうひゃくわ

胡堂百話

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《胡堂百話(こどうひゃくわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 124,386 字 · 248 頁

青空文庫

消えゆく江戸のよさ

消えゆく江戸のよさ

近ごろは「江戸のよさ」ということが、忘れられているようだ。

むろん、表立っていえば、悪い時代だったに違いない。封建的で、階級的でそして迷信横行で、始末におえない世相であった。だが、その半面に、こんな呑気な時代は、なかったともいえる。

「ネコのノミ……取りましょう……」

ねむいような昼下がりを、街から街へ、呼んで歩くと、猫に眼のない内儀さんや、お妾さんが、

「チョイト。ノミ取り屋さん」

気取った声で呼びこんで、タマちゃんや、ミイちゃんのために、ノミを取らせる。特殊の技能と、ちょっとした道具を持っているわけだが、こんな商売が成り立つのは、世界の、どの時代にもあまり類がない。石川啄木は、明治の末年に、

「三十円ないと月が越せない」

といって、世の中が世智からくなったことをなげいているが、江戸時代には、居候の名人というのがあって、一生涯、居候をして楽に暮せたという話がある。

古い江戸図をひろげると、道路の黄色と、町家の薄ネズミ色と、そして、青い濠の水とが、広重の版画と同じ郷愁を見る人の胸にしみ通らせてくれる。

いわゆる三十六見附は、高い石垣の桝形があって、槍や鉄砲や梯子の類は通さない。