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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十五)茶碗割り

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十五)茶碗割り(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,804 字 · 225 頁

青空文庫

その後ろからむずと組付いたのは、ガラッ八の八五郎でなくて誰であるものでしょう。

「八、逃すなッ」

井戸の中から濡れた様子もない平次が這い上がって来ました。

「何糞ッ」

その揉み合いは長くはありませんでした。曲者にどんな術があったものか、羽交締めにした八五郎の腕をスルリと抜けると、巨大な鳥のように、サッと物蔭に消え込みます。

「畜生ッ」

飛び付く八五郎。

「八、もういい。あの頭と足を見たろう。――相手の素姓は判っている」

平次はいきなり神津邸の裏門へ廻ると、拳を挙げて叩いたのです。

寝ぼけ顔を出した熊吉を叱り飛ばして、屋敷に飛込んだ平次と八五郎、おどろき騒ぐ家人を尻眼に、寝巻のまま飛び起きて来た主人神津右京の袖を掴みました。

「早く一刻の油断もなりません。若様の御命――早く、お鳥の部屋へ御案内を願います」

平次の息は弾みました。

「何を申す」

神津右京、何が何やら判りませんが、平次の気組みの激しさに釣られて、お鳥の部屋へ案内する外はなかったのです。

「八、よいか」

諜し合せた眼と眼。サッと唐紙を開くと、八畳の奥に一人の怪人――と見たは彦徳の面をかなぐり捨てた人間が、小脇に半死半生の吉弥を抱え、脇差をその喉笛に押し当てて、いざと言わば一と突きと構えているのでした。