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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十)金色の処女
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十)金色の処女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 137,868 字 · 278 頁
年増芸者のおりんは、何やらわめき散らして、狭い船の中――杯盤の間を滅茶滅茶に転げ廻りました。日頃気取ってばかりいる中年増のお袖も、訳のわからぬ事を歌い続けながら、あられもない双肌脱ぎになって、尻尾に火の付いた獣のように、船の中を飛び廻ります。
その中でも一番猛烈を極めたのは、船頭の三吉でした。口から泡を吹いて、酔眼をビードロのように据えたまま、野猪のように、艫から舳へ、舳から艫へと、乱れ騒ぐ人間を掻きわけて飛び廻ります。
鎮まり返った隅田川の夜気を乱して、船の中には、一瞬気違いじみた旋風が捲き起ったのです。洞ろな笑いと、訳の解らぬ絶叫と、滅茶滅茶にもつれ合う中を、六人の男女が狂態の限りを尽すのでした。
一番若くて、一番綺麗なお蔦は、颱風の眼のように移動する動乱の渦を避けて、お燗番の卯八の懐に飛込んだり、伽羅大尽の貫兵衛の背後に隠れたりしました。船はちょうど隅田川の真ん中に停ったまま、ちょっとも動く様子はありません。この動乱を避ける道は、夜の水より外にはないのですが、水心のないお蔦はさすがにそこへ飛込むほどの勇気もなかったのでしょう。
「旦那、どうしたんでしょう、私は、私は怖い」