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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《風流太平記(ふうりゅうたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 頁
「いや私には、なにも」
云いかけて休之助は黙った。
遠く、遙かに遠く、びょうびょうと、なにかの声が聞えた。
それは人の声ともけものの声ともつかない、貝の音のようでもあるが、それとも違っていた。訴えるように、悲しげに、びょうびょうと長く尾をひいて、地の底でなにものかが慟哭するかのように、陰々と聞えて来るのであった。
「なるほど、聞えるな」
休之助はこう云ったが、云いながら、(なんという理由もなく)ぞっと膚が粟立つのを感じた。
「だが、山霊とはなんだ、野獣か鳥のたぐいなのか」
「いや、そんなものじゃねえのです」
五郎兵衛は首を振った。
「あれは去年の夏ごろから聞え始めただが、場所は加波山の弁天谷のあたりでしょうか、ときどき夜になると、あんなような気味の悪い声で哭くだ、初めのうちは狼かなんぞだと思って、土地の若い者たちが退治にでかけただが、――でかけていった者で、生きて帰ったのは、たった一人しかいなかったということでさ」
「あとはどうしたのだ」
「みんな山霊さまに掠われちまって、どこへ持ってゆかれるもんだか、死躰もみつからず、骨も残っちゃいねえのです」
老人はふと肩をちぢめ、寒い風にでも当ったように身ぶるいをした。