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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「綱手殿は、御不服であろうが――」
と、月丸が、もう一度云ったのに対して
(不服でございます)
と、明瞭と、返事もできなかった。月丸は、綱手が、黙っているので
「一体、お身は、不服か、それとも――」
と、問いつめてきた。綱手は、何っちとも返事ができなかったし、したくもなかった。
「七瀬殿のことを、悪し様に申してはよくないが、嫁しては夫に従う、これが、婦の道でござろう。まして、何れが正義、何れが不義と、判断のつかぬ騒動、斉興公に従うが、利益ゆえと――ただ、利益ゆえで、夫の意見に逆うなど、ちと、腑に落ちんこともある。では、ござらぬか――綱手殿」
月丸は、微笑した。
「しかし――女としては、よく決心し、よく計られた。貞女、節婦とも、称められんこともない――と――某は――見ておるが――」
月丸は、綱手の上げた眼へ、美しく、澄んだ眼で、笑いかけた。綱手は、ようよう返事のできそうなことを、月丸が云ったので
「と、申しますと――」
と、月丸の言葉の意味が、十分に判らなかったから、同じように、微笑して聞いた。
「某は、それが、七瀬殿なり、お身の本心じゃ、と思うが――何うかの」