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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

大阪蔵屋敷

臥みましょうか」

七瀬は、こういって、うつむいている綱手に、言葉をかけた時、薄汚い婆さんが、濡れた袖を拭きつつ

「御免なされ」

と、入って来た。そして

「おお、美しい女中衆じゃ、年寄一人だから頼んます」

と、図々しく、坐った。二人は、この婆が、自分達の家を呪う悪魔の化身のように思えた。

大阪蔵屋敷

施米に群れている群集のどよめきが、調所の居間まで、伝わって来ていた。

米が一両で、六斗だ。その高い米でさえ、品が少く、城代跡部山城は、大阪からの、米の移出を禁止してしまった。それでも、一両で六斗だ。

天保三年に不作で、四年の米高に暴徒が起った。五年の秋には、暴騰して、囲米厳禁の布令が出て、米施行があった。江戸では、窮民のお救い小屋さえ出来た。

調所は、金網のかかった火鉢へ手を当てて、猫背になりながら、祐筆に、手紙の口述をしていた。

諸国和製砂糖殖え立、旧冬より直段、礑と下落致し、当分に至り、猶以て、直下げの方に罷成り、

遠雷に似た響きがした。群集のどよめきが、一寸、高くなった。調所が考え込んだので、祐筆が

「何んの音で、ござりましょうか」

と、云った時、又、物のこわれるような音が秋空に立ちこめて響いた。