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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

まんじ乱れ

「無事か。皆、変りはないか」

「ええ」

深雪は、前掛で、手を拭きながら、胸を嬉しさでいっぱいにしながら、兄に従って、井戸端から、家の方へ、小走りについて行った。長屋の人々が、二人をのぞいて見て

「おお、若旦那」

とか

「よく、御無事で」

とか、声をかけた。深雪は

「有難うございます、有難うございます」

と、左右へ、お叩頭をしながら、涙を浮べていた。

「庄吉に、南玉は?」

「呼んで参りましょうか」

「それにも及ばぬ」

「ええ、もう、参りましょう」

口早に、こう云って、二人は、家の中へ上って行った。

「もう、大事ないのでござりますか」

「うむ」

「ま、何うして、では、召捕りに?」

「判らぬが、察するところ、御鷹野の連累として、念のために捕えたが、久光公から、何か、御言葉が出たらしい。将曹でも居ったなら、斬られたかも知れんが、あいつ、国許に戻っておるし、斉彬公の御世継の話の定まりそうな折柄、奉行も、濫りに、手をつけて、役の表に障ってならぬと、それで、無事に放免したらしい。召捕らせたのは、将曹か、平か、お由羅あたりの指金らしいが――当節は、奉行も、利口で、風向次第、何んとでもするものらしい」