Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

和田は、力任せに、馬子の腕を引いた。

人々の立去った足音、最後の衣ずれが、聞えなくなった瞬間――邸が、部屋が、急に、しいーんとした。

それは、いつも感じたことのない凄さと、無気味さとを含んだ、丁度、真暗な、墓穴の中にいるような、凄い静かさであった。七瀬は、肌をぞっとさせ、頭の中へ不吉なことや、恐ろしい空想を、ちらっとさせた。

(何を、怯けて――)

と、自分を叱って、すぐ膝の前に、よく眠入っている、斉彬の二男、寛之助の眼を、じっと眺めた。

新しい蒲団を三重にして、舶来の緋毛布に包まれて、熱の下らない、艶々と、紅く光る頬をした四歳になる寛之助は、睫毛も動かさないで、眠入っていた。七瀬が耳を寄せると、少し開いた口から、柔かな、穏かな呼吸が聞えた。

(この分なら――)

と、微笑して、身体を引くと、また、余りの静かさが、気にかかった。その静かさに、それから、自分の臆病さに、反抗するように、わざと灯の影の暗い天井を仰いだ。暗い、高い天井を、じっと凝視めていると、じりっと、下って来るように感じたが、睨むと、何んでもなかったし、屏風の蔭から、誰かが顔を出しそうなので、じっと眺めていたが、何も、出て来なかった。