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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「駕屋っ」
益満は振向いた。
「勝負有ったのう」
駕屋は、両手を膝までおろさんばかりにして、頷いた。
「駕人足の云うことにゃ、か。陽は、暮れかかる。腹は、すく。勝負も、すでに見えました。私ゃ、本郷へ行くわいな――駕っ」
益満は、両手に刀と、短銃とを提げて、くるりと、背を向けた。そして、自分の駕の方へ、歩きながら、短銃を、懐に、刀を鞘に――そして、倒れている浪人へ、眼をやって、二人を顧みて
「これは、往生しておる。そちらのは膝だけじゃ。二人で、抱えて行ってやるがよい。今後、濫りにかかるなよ。仙波小太郎などは、某よりも、業が早い」
侍と、浪人とは、益満を、じっと睨んだまま、刀を下へ下げて、同じところに佇んでいた。益満は、駕へ入って
「吃驚、致したか」
と、駕屋へ笑いかけた。駕屋は、ぶるぶる脚を震わせていたが
「へえ」
と、答えたまま、容易に駕が上らないようであった。手も、膝も、がくがくふるえていた。
「何うした」
「へつ」
二人の侍は、倒れている浪人を、肩にすがらせて立上らせた。片膝を斬られて歩けない浪人は、左右から扶けられて、ようよう一足歩き出した。その時、益満が、丁度振返った。