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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

と、一人が叫んで、駕の中を見た。七瀬は、はっとした。矢張り、同じ家中で、見た顔の一人であった。と、同時に、その侍が

「待て、駕、待てっ」

と、道の真中へ出て、両手を拡げた。

「待ちやすっ」

四人の駕屋は、顔色を変えた。

「降りろ」

七瀬も、綱手も、懐剣へ手をかけた。駕屋が

「旦那、手荒いことは――」

駕屋は、駕が血で汚れるのを恐れて、二人が駕を出るが早いか、木立のところへ運んでしまった。

「駕屋、動くことならんぞ」

と、一人が、刀を抜いた。草の上にしゃがんでいる侍が、二人を見た。

「御用は?」

七瀬は、蒼白になって――だが、静かに聞いた。

「御用? 仙波の家内などに用はない」

「御用もないのに、何故、降りよと、仰せられました」

「何?」

侍は、七瀬を睨みつけておいて

「駕屋っ、この手負を、湯本まで運んで参れ」

「これは、御無体な、この駕は、妾が――」

侍は、七瀬にはかまわないで

「愚図愚図致すと、斬り捨てるぞ」

と、駕屋へ怒鳴った。

「へい」

駕屋は、顔を見合せて

「済みませんが」

と、七瀬へ、腰を曲げた。侍が、棒鼻へ手をかけて

「早くせい」

「へいっ」

駕屋が、駕を上げた。