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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
短刀を突き出して一足進んだきり、お由羅を見つめて、立ったままであった。何故かしら、勿体ないようでもあり、気の毒のようでもあり、可哀そうなようでもあり――突いてかかれなかった。
「たわけがっ」
調所は、叫んで、立上った。
「誰か――誰かっ、早く」
と、お由羅が、叫んだ。お由羅が、こう叫ぶと、同時に、深雪は
(見苦しいっ――何んという、周章てた振舞、いつものお部屋様に似ず――)
と、感じた。そして、そう、感じると、何故かしら、腹が立って来た。
(町人上りの――)
と、微かに、憎らしくもなってきた。そして、短刀を振上げて一足迫った。その刹那、調所が立上って来て、深雪の、右手を掴んだ。そして
「放せっ」
と、叫んで、短刀を持った手を、力任せに、締めつけた時、二三人の女中が、襖から、中をのぞくと
「あっ」
と、叫んで、駈け込んで来た。深雪は、ちらっと、それを見ると、その瞬間、懐剣を、自分の胸へ突き刺した。そして、よろめいた。眼がすっかり、上ずってしまった。顔色は、灰色であった。
二三人の女中が、蒼白になりながらも、深雪を、後方から抱きすくめるのと、調所が、深雪の手から、懐剣をもぎとるのと、同時であった。