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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

小太郎は、すぐ起るにちがいのない、夫婦、母子の生別の場面を想像して、心臓を、しめつけられるように痛ませた。

小手を、かざして

御陣原見れば

武蔵鐙に、白手綱

鳥毛の御槍に、黒纏

指物、素槍で、春霞

益満の家から、益満の声で、益満の三味線で、朗らかな唄が聞えて来た。

お馬揃えに、花吹雪

桜にとめたか、繋ぎ馬

別れまいとの、印かや

ええ、それ

流れ螺には、押太鼓

陣鐘たたいて、鬨の声

さっても、殿御の武者振は

黄金の鍬形、白銀小実――

八郎太も、小太郎も、黙って、その唄を聞いていた。何をいっていいか、何を考えていいか、わからなかった。罪もなく、尽すべきことを尽して、そして、離別されに戻って来た妻の顔、母の顔が、今すぐに見えるのかと思うと、いらいらした怒りに似たものと、取りとめのない悲しいものとが、胸いっぱいになってきた。

つつましい足音が聞えてきた。襖が開いた。小太郎は、母だと思ったが、顔を見るのさえ辛かった。振向いて、眼を外らしながら

「お帰りなされませ」

と、いった。

「只今――」

そういった七瀬の声は、小太郎が考えていたよりも、晴々としていた。小太郎は、うれしかった。

(医者が、侍臣が十分に、手を尽しても、助からぬのだから、何も、妻の手落ちばかりというのではないが――重役の方々のお眼鏡に叶って、御乳母役に取立てられたのに、その若君が