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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「待つ身になるな、虫の声、志賀の都は、荒れ果てて、か。山崎西に去れば、桜井の駅、伝う、これ楠公子に別るるのところ」
小声で、詩を吟じかけた時、馬蹄の音が、橋板一面に響いて、水の面へ拡がって、京の方から、聞えてきた。眼を閉じていたのが、腕を解いて、眼を開くと
「有村」
二人は、ちらっと、眼で、語り合うと、すぐ、艪をとって、艪臍へ落した。静まり返っていた水が、左右へ揺れて、うねりが、だんだん拡がると共に、舟は、橋の下を離れて、湖心の方へ、すべり出した。
有村は、舟の中でしゃがみながら、じっと、橋の上を眺めていたが、馬蹄の轟く音が、近づくと共に、
「そうだ」
といった。
「見えるか?」
と、伊牟田が振向いて
「御持槍が見える。愚図愚図してはおれんぞ、有村」
艪をすてて、胴の間へ、どんと、飛び降りると、二人とも、短銃へ、弾丸を込めた。二梃とも、精巧な舶来物であった。
島津斉興公の出府人数は、先払いから、小半町遅れて徒土頭を先頭に、丸に十字の金紋打った直槍をつづかせ――だが、急ぎの道中のことといい、町を離れてからのこととて、槍を伏せて、制止声もかけず、足並を乱して、足早に、槍が二本、日傘、坊主、小姓、馬廻り、挟函、医者、胡牀、馬、土産の長持――いつもよりも、人数は少いが、それでも、二百人余りが、長々と橋を轟かして、渡って