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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
(もしか、そういうことに――)
と、心をおののかせて、心配したように――深雪が、抱きすくめられているのを見ると、全身の血が、逆流した。
「お嬢さん――お嬢さんっ」
庄吉は、叫んだ。
「師匠っ」
庄吉は、自分ぐらいが一人、斬られてしまったところで、到底、月丸を傷つけることは出来ぬ、と感じた。命を棄てるのは、惜しくなかったが、月丸に、指もさせないで、斬られたくないと、思った。
「師匠。若旦那、呼んで来いっ」
「よしっ」
南玉は、走りながら
「抜かるなよ――逃がすな」
庄吉が、頷いて
「逃がすかえ」
と、叫んだ時、深雪が
「兄を呼ばぬよう」
月丸の腕の中でもがきながら、二人へ叫んだ。庄吉は、頭の中を、叩かれたように、感じた。
(腑抜けだ。こん畜生っ、俺あ――何んて、意気地なしなんだろう。命を捨てる、捨てる、と、ほざいておきながら、いざとなった時に――このざまで――)
そう感じると共に
「師匠。いらねえっ」
と、叫んだ。
「野郎」
二間余り離れて、深雪を抱き込みつつ、歩んで行く月丸へ、猟犬の如く、草叢の中から、飛んで行った。
深雪の肌は、綱手の肌よりも、暖かであった。その体温が、月丸の腕から、腋の下から、脚から、月丸の血管の中へ、しみ透った。