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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
芳州が入ってくると
「風邪でもひいたのか、少し、熱がある」
と、云って、手を出した。
「拝見仕ります」
芳州は、左手をついて、右手で、じっと、脈を見た。
「お前達は、天下のことを、一人の力でなせると思うている。一蔵」
「はっ」
「わし一人の力で、天下の大事がなせるような口吻じゃ。これは、大きにちがうぞ。岩下、お前一人の力で、先刻申す、奸党を斬るということが、出来ないように――又、一人の阿部伊勢、一人の井伊掃部が、幕府の頽勢を支えきれぬように、如何に、一人のみが、傑れておろうとも、周囲に人がなく、天下に勢いがなければ、何事をも為し得ぬものじゃ」
芳州が
「お横に――」
と、云った。一蔵が
「お枕」
「いいや、いらぬ」
斉彬は、帯をゆるめると、そのまま、手枕をして、横になった。芳州は、胸を開け、腹を按じ、叩き、撫でして、診察して行った。
「難かしそうだの、芳州」
芳州は、指先で、腹を強く押えながら
「はい」
と、強く、答えた。四人が、芳州の横顔を見た。
「風邪か」
「いいえ、風邪のお熱とは、心得られませぬ。心熱が烈しゅうござりまして――然し、御疲労のみでもなかりそうに心得まする」