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ぜにがたへいじとりものひかえ

橋の上の女 ――銭形平次傑作選2

野村 胡堂

Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens

Aozora Bunko

「その前には誰も外へ出なかったのか」

「これは主人を捜しに出たわけではありませんが、番頭の忠助どんが、――外で人声がするようだと、裏木戸を覗いた様子でしたが、――なんでもない――といって四半刻ほど見廻ってから帰って来ました。亥刻半(十一時)過ぎだったでしょう」

「それから」

「一と晩大騒ぎをしましたが、なんにもわからず、とうとう朝になってしまい、八五郎親分も来てくれましたが、昼近くなって、あの通りの姿で永代の下に浮んだそうで」

お常はそれでも涙を拭く真似などをしております。

「お前とは仲が良かったことだろうな」

平次の問いは唐突でした。

「いえ、――近頃は喧嘩が絶えませんでした。どうかしたら私は近いうちに追い出されたかも知れません」

この女は恐ろしく正直です。が、考えて見ると仲が良かったといったところで、誰もそれを保証してくれる筈はなく、どうせ仲の悪さが知れるものなら、自分の口から正直にいう方が、賢いのかもわかりません。

「主人を怨んでいるものはなかったのか」

「飛んでもない。太っ腹な良い人でしたもの」

お常は強く否定します。

「この櫛に覚えはないか」

平次は八五郎から受取った、死体の袂にあったという梳き櫛を見せました。