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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
三
その下手人を親分の手で挙げていただき、私は菊次郎様の無念が晴らしとうございます」
お夏は確と言いきるのです。が、その顔には少しの苦渋も、嘆きらしいものも見られなかったのです。
「お心当りは、下手人の?」
「私は何んにも存じません」
これ以上は、無理に訊いても、お夏の口を開ける見込みはなかったでしょう。平次はしばらく考えておりましたが、
「参りましょう。三輪の親分には悪いが、どうも放っておけないような気がする」
「有難うございます、親分。それで私の気も済みます」
お夏は、首を垂れて、始めてホロリとするのです。この娘は何を考え、何を目論んでいるのか、平次にも見当はつきません。たった十九の娘が、こんなに利巧な筈はなく、こんなに思いきった行動をとれそうもなく、それよりも、こんなに非人情な筈はないように思えるのです。
三
お夏の駕籠を先に帰してやって、平次と八五郎は、その後から続きました。橋場に着いたのは、やがて昼近いころ、彼岸も過ぎ、桜も散り、仏誕会が近くなって、江戸の町もすっかり初夏です。
「ね、親分、良い娘でしょう。銘仙に黒い帯、拵えは地味だが、人間はそれよりもまだ地味で、ちょいと冗談も言えないが、あんな娘は反って、情が深いんですってね。