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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
五
「三月過ぎになると、時々そんなことはあったようでございます」
「それを知ってるのは?」
「私と、弟の徳三郎さんくらいのもの。あとは奉公人たちは遠くにいるので、一人も知ったものはない筈でございます」
「菊次郎さんは舟は漕げなかったと聞きましたが――」
「私も、それが不思議でなりません」
「この家で舟の漕げるのは?」
「父は自慢でございますが、あとは元吉くらいのものでしょうか」
お夏の答えははっきりしております。
五
「親分、これからどこへ行くんで」
伊豆屋の店を出ると、八五郎は平次の後を追います。
「向島へ行って見ようよ。菊次郎はそっと夜中にぬけ出して、ときどきそのお銀とやらに逢っていたようだ」
「そいつはたまらねえね、――そのお銀とやらは、大変な女だそうで」
八五郎はまた、揉手をして喜んでおります。有名な美人に逢って見るのを、役得と心得ている八五郎です。
橋場の渡しを越えて、水神の森にかかると、お銀の茶屋はすぐでした。花時が過ぎて葉桜が毛虫だらけになると、暫らくは暇で仕様のないように見えますが。
だが、この葉桜の季節が、お銀の本当の稼ぎでした。お銀の魅力にあこがれた若い男たちは、灯に寄る夏の蛾のように、水神のお銀の茶屋に覗い寄るのです。