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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
入って見ると、巴屋は表戸をおろしたまま、中の騒ぎは大変でした。主人山三郎は、裏庭の崖下に、石の地蔵様を抱いたまま転げ落ちて、そのうえ、刺身庖丁で首筋を深々と刺され、さらに、縞の前掛で顔を包んで、真田紐でその上を、耳から眼、鼻へかけて縛ってあるのです。
「おや、向柳原の八五郎兄哥じゃねえか」
暗い中から光った眼は、金杉の竹松という、四十年配の顔の良い御用聞でした。
「金杉の親分ですかえ。江の島の帰り、騒ぎがあると聴いて覗きました。見せて頂くと、神田へ帰って、銭形の親分に、飛んだ良い土産話になります」
八五郎も近頃は、こんな世辞が言えるようになったのです。
「そうか、蓋も底もねえような殺しで、大方下手人の見当もついたようだ。貝細工よりは、気のきいた土産になるかも知れないよ。見るが宜い」
金杉の竹松はすっかり良い心持になった様子で、金壺眼を細めます。
主人山三郎の死体は、裏の一と間に納め、香華だけは供えましたが、まだ仏前の用意も、入棺の手順もつかず、大勢の家族と奉公人と、町役人と近所の衆が、ザワザワ騒ぐだけ。
「幸いと申しましょうか、昨夜は一人も客がなく、――尤もここは江戸の内と申しても、海道の入口ですから、泊りのお客は滅多にございません。