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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(七)平次女難
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens
「…………」
黙って半白の頭を振りました。涙はポロポロと、赤銅色の頬を伝わって、土間の土くれを濡らします。
そっと肩に手を置く者。振り返ると、
「彦兵衛」
銭形平次が立っているではありませんか。
「親分」
「お慈悲は過ぎたぞ、――この上のお目こぼしは、役人方の落度になる」
「覚悟は出来ております、親分」
彦兵衛は静かに後ろへ手を廻しました。
「経師屋東作殺しの下手人、神妙にせい」
「親分、有難うございました。お蔭で娘は、何にも知らずに、あの通り――」
街の夕陽の中に薄れ行く駕籠、それを見送って、彦兵衛は声もなく泣くのです。
「笹野様の御慈悲だ――それもこれも。さア立て」
「親分、この彦兵衛が最後の願い、もう一つだけ無理を聞いて下さい」
「…………」
「お願いだ、親分。あの娘には、何にも知らせたくはありません。私の居ないのを不思議に思ったら、亡妻の菩提を弔うため、西国巡礼に出た――とそう言っておいて下さい」
彦兵衛は自分の襟に深々と顔を埋めます。
「いいとも、この一埒は笹野様も御奉行様も御存じだ。東作はお上でも持て余した悪党、それを害めたところで、大したおとがめはあるめえ――お富に初孫が出来る頃までには、手前も西国巡礼の旅から帰って来られるだろうよ」