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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(七)平次女難

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens

Aozora Bunko

二

二

「なんだ、町人か」

向う疵のある、大柄の浪人は、平次を睨め廻しながら、部屋の真ん中にドッカと坐り込みます。

「虫だと思ったら腹も立つまい、我慢をせい」

続くのは小柄な中年男。

「俺はその虫が大嫌いでな。蚤、虱、バッタ、カマキリ、百足虫、――虫と名のつくものにろくなものがない」

「目障りだったら、捻り潰すだけの事だ。まア湯へ入って一パイやらかそうか」

平次は驚きました。世の中にこんな無法な武家があるものでしょうか。見れば酔ってもいない様子、「触らぬ神に祟りなし」といって、その頃の人に共通の逃避的な心持で、平次は殊勝らしく部屋の隅っこに小さくなったのです。

やがて交る交る風呂に入った二人の浪人者は、一本つけさして、互に献酬を始めました。平次はその間に部屋を出て、懐紙に帳場硯でサラサラと何やら認め、店先に立って宵の街を眺めております。

その頃の街道筋の賑わいは、今日想像したようなものではなく、大名の行列だけでも、日に幾つも通ることがあり、上り下りの旅人、諸芸人、武士、僧侶、あらゆる階級の人の間を縫って、諸大名の早飛脚や、十一屋の定飛脚などが、夜昼の別なく通っております。