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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(七)平次女難

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens

Aozora Bunko

その足で丸屋へ行くと、主人源吉も、その事があってから、二三日は小さくなって引籠っております。

「親分、これは」

擽ったい顔に迎えられて、平次は縁側へ腰をおろしました。

「誰も聞いちゃいないだろうな」

「皆んな店の方に居ますよ、どんな御用で? 親分」

「その障子や唐紙をみんな開けて、縁側へ顔を貸して貰いましょうか、――実はね、丸屋さん、お前さんは女出入りの多い人だが、打ちあけたところ、本当に怨まれそうな筋は幾つあるんで?」

平次の問は唐突でした。

「そんなにありゃしませんよ、親分、世間の評判の方が大きいんで――」

源吉は照れ臭く額を叩きました。全く良い男には相違ありませんが、自負心が強大で、生っ白くて、平次が見ると、虫唾が走りそうでなりません。

「だが、世間で気の付かない、言うに言われない引っ掛りのがあるだろう。少し押付けがましいが、これへ心当りの女の名前を書いて貰いましょうか、――商売人は別だぜ」

平次は硯箱と巻紙を引寄せました。

「親分さん、本当のところ、人間はそんなに浮気が出来るものじゃありません。商売人を除けると、幾人もありゃしません。世間の評判が大きくなると、恥かしい事ですが、私もツイ自慢たらしく見せかけてやりたくなるまでの話で、いざとなると皆んな向うから逃げてしまいます」