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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens
銭形平次捕物控
一
一
「親分、ちょいと逢ってお願いしたいという人があるんだが――」
ガラッ八の八五郎は膝っ小僧を揃えて神妙に申上げるのです。
「大層改まりゃがったな。金の工面と情事の橋渡しは御免だが、外のことなら大概のことは引受けるぜ」
平次は安直に居住いを直しました。粉煙草もお小遣も、お上の御用までが種切れになって、二三日張合いもなく生き延びている心持の平次だったのです。
「へッ、へッ、へッ、そんなに気障なんじゃありません。御用向きのことですよ」
「そんならいつまでも門口に立たせちゃ悪い。どんな人か知らないがこっちへ通すがいい」
「ヘエ――」
ガラッ八が心得て路地へ首を出すと、共同井戸のところに待機している、手頃の年増を一人呼んで来ました。
「親分が逢って下さるとよ。遠慮することはねえ、ズーッと入りな、ズーッと」
ガラッ八は両手で畳を掃くように、件の女を招じ入れました。渋い身扮と慎み深い様子をしておりますが、抜群のきりょうで前に坐られると、平次ほどの者も何かしら、ぞっとするものがあります。
年の頃は二十七八、どうかしたらもう少し老けているかも知れません。眉の長い、眼の深い、少し浅黒い素顔も、よく通った鼻筋もこればかりは紅を含んだような赤い唇も、あまり街では見かけたことのない種類の美しさです。