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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens
二
火の車除けの有難いお護符が出るとは知らなかったよ。ブラリブラリと行ってみようか、八」
「有難え。今日の道灌山はうんと人出があるから、何か面白いことがあるような気がしてならねえ」
「火除けの行だから、キナ臭かったんだろう」
「違えねえ」
道灌山へ平次と八五郎が向ったのは、悠々と昼飯を済ましてから、火伏せの行が始まるという申刻(四時)時分には、二人は無駄を言いながら若葉の下の谷中道を歩いておりました。
二
東海坊というのは、そのころどこからともなく江戸に現われた修験者で、四十五六の魁偉な男でしたが、不思議な法力を持つと噂されて、わずかの間に江戸中の人気を渫い、谷中に建てた堂宇は、小さいながら豪勢を極め、信者十万、日々の賽銭祈祷料、浅草の観音様をさえ凌ぐと言われました。
東海坊の法力で、一番江戸の町人を驚かしたのは、いかなる難病も癒らぬことはないと言われた祈祷でした。越後屋の隠居は三年越し立たぬ腰が立ち、伊勢屋の息子は五年がかりの癆症がケロリと治って嫁を貰い、旗本三右衛門の奥方は、江戸中の医者に見放された眼病が平癒し、小梅の豪農小兵衛は、気が触れてあらぬ事を口走ったのが、拭うがごとく正気に返って、谷中の堂に銅の大手洗鉢を寄進したといった比いの噂が、風に乗って撒布されるように、江戸中へ広がって行ったのです。