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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens

Aozora Bunko

五

五寸以上の雪だから、たった五六間歩くのに、足駄がめり込んで弱ったね」

意味もなく語りつづける音松老人の言葉は、植木屋幸右衛門を遠く嫌疑の外へ追い出してしまいます。

「往来からすぐこの寮へ来た足跡はなかったのか」

「ありませんよ。もっとも往来から俺たちの休んでいる離屋はすぐだから、軒伝いに廻って来て、母屋のお勝手へ入れば別だが」

音松の説明は、全く他の者――例えば勝太郎のようなものでも、寮へ来ることの可能を証拠立てます。

「お勝手にあった足跡は足駄か草履か、それとも――」

「そこまで判らねえ、でも何か歯の跡が見えたように思うが――」

はなはだ覚束ない言葉です。

五

平次とガラッ八は、隣の植木屋幸右衛門の家へ顔を出しました。

「親方、とんだ迷惑だネ」

平次はお世辞ものです。何か昔馴染の家へ遊びにでも来たような心置きなさ――。

「ヘエ――、銭形の親分さんだそうで、御苦労様で」

「俺の来ることが大層早く判ったんだね」

「お鶴坊がそう言って教えてくれましたよ。江戸で高名な銭形の親分さんがいらっしゃると――」

「ハッハッ、そいつは丁寧すぎて謝った。ところで親方、ゆうべは何にも物音を聞かなかったかえ」